実録・私設銀座警察(1973)
『仁義なき戦い』と同じく1973年の作品ですが、仁義がメジャー級扱いなのに対し、こちらはカルト的な扱い。コアなファンにとても人気があります。なぜなら正統派ヤクザ映画というよりエログロ度が強いから。
主演は元ヤクザ(というか愚連隊)の安藤昇。若い頃に傷つけられた頬の大きなスカーフェイスでお馴染み。
ちなみに今回葉山良二にもスカーフェイスがありますがこちらは偽物。
脇を固めるのが梅宮辰夫、渡瀬恒彦、葉山良二、室田日出男、大好きな待田京介(自伝書いて欲しい)にちあきなおみの今は亡き旦那の郷鍈治。たこ八郎や小林稔侍も姿を現します。
監督は佐藤純彌。深作欣二と違い音楽の使い方に前衛ジャズを取り入れたりとちょいとオシャレ。
昭和21年、敗戦の影響が色濃い中、韓国人や米兵がのさばる東京の銀座周辺が舞台。
復員した渡瀬恒彦は女房が黒人とまぐわっていて、更に黒人との子供がいることを知り怒りが頂点に達し、子供を投げ捨て女房を撲殺するショッキングなシーンから始まります。これだけでダメな人はダメでしょう。
韓国人にリンチされた安藤昇、パン助を強姦しようとしてMPに殴られた梅宮辰夫、博徒の葉山良二と客の室田日出男。この4人が安藤昇と一緒にたまりに溜まった鬱憤を晴らすが如く韓国人を襲撃し、意気投合し自ら自警団を組みます。これが銀座私設警察で、ちなみに実録とあるように浦上一家というモデルがちゃんとあります。
自警団と言ってもやっている事はヤクザそのもの。当時警察は全く機能していなかったのを良い事にやりたい放題。
ショバ代や暴力でのしあがり、それまで銀座を仕切っていた待田京介、郷鍈治兄弟との抗争でヤケくそになった渡瀬恒彦をヒロポンで手懐け鉄砲玉にし銀座を制圧します。
安藤昇は先を見越せるインテリ経済ヤクザで子分の人望も厚いですが、葉山は武闘派なので、予想通り内部分裂が始まります。ショバ代で満足する葉山良二と脅迫で大金をせしめ会社を設立する安藤昇とは相容れなくなるのは必然。脅迫にしたって安藤昇のやりかたはスマートです。武闘派は欲にまみれ、やり過ぎてしまい自警団は結局は破滅の道を辿ります。
というお話。
根底にあるのは対比ですかね。生と死、動と静。
それはインテリ安藤昇と武闘葉山良二でもあり、享楽的な梅宮辰夫と一切騒ぎに加わらず孤独に死を迎える渡瀬恒彦でもある。
女好きC調テイストの梅宮辰夫の演技が、うんざりするくらいの暴力描写から気持ちを紛らわせてくれます。これがないとちょっとキツい。
そして射殺シーンで一瞬安藤昇の人形が出現します。今ならCGなどで上手く見せられるのでしょうが、明らかに人形とわかるので笑ってしまいました。
渡瀬恒彦の鬼気迫る演技も素晴らしいです。
暗殺に失敗し何発も撃たれ埋められてもゾンビみたく土の中から這い出してきます。
『仁義の墓場』で兄の渡哲也の演技も凄かったですが弟だって凄いですよ。本当にヒロポン打ってるんじゃないの?
そして何と言ってもラスト10分は必見。警察の捜査で逮捕懲役は免れないと悟った梅宮辰夫と葉山良二は開き直ってシャバでの思い出にと脅迫で得た大金でどんちゃん騒ぎをします。それが芸者を巻き込み大乱行に発展します。まるでソドムの大宴会のようです。
見終えてみると脚本や構成が見事で、仁義なき戦いと同様の評価を得ても良いくらいだと思いましたが、やはり暴力やエログロ描写が激しすぎるので難しいのでしょう。しかしこの時代の女性の描き方ってほぼセックスの対象で今ならフェミニストたちから糾弾されるくらいの存在の軽さですね。
ちなみに愛人なのか嫁かいつの間に安藤昇の側にいた善江役の中村英子は山口組三代目田岡組長の長男と結婚をしますが、1年経たずに謎の自殺をします。
面白すぎてあっという間の95分でした。